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金沢地方裁判所 昭和24年(行)11号 判決

原告 松栄清吉

被告 石川県農業委員会

一、主  文

被告石川県農業委員会が昭和二十四年八月十二日附を以て、原告所有の羽咋郡中荘村字上田出ノ四十五ノ一宅地一六一坪に係る中荘村農地委員会の買収計画についてした原告の訴願を却下した議決は之を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め、その請求の原因として、訴外中荘村農地委員会は訴外津田作次郎の申請により原告所有にかかる主文掲記の宅地について昭和二十四年五月二十五日自作農創設特別措置法(以下自作法と略称する)第一五条に基き買収計画を樹てたので、原告は之に対して右農地委員会に異議を申立てたところ却下され、更に被告石川県農地委員会(以下単に委員会と略称する)に訴願したが同年八月十二日却下された。然しながら右買収計画に従つて右裁決は左記理由により違法であるから取消さるべきである。

一、訴外津田作次郎は本件宅地につき自作法第一五条所定の買収申請資格がない即ち自作法第三条もしくは第一六条所定の農地の売渡を受けた事実はない。

(一)  訴外津田作次郎が自作法の規定により売渡を受けた土地は

(イ)  羽咋郡中荘村字上田出ク五〇番  田 一畝 六歩

(ロ)  同    所    ク五一番  田 一畝一八歩

(ハ)  同    所    ク五二番  田 一畝二五歩

(ニ)  同    所    ク五三番  田 一畝一六歩

(ホ)  同    所    ク三〇番一 畑    九歩

のみであるが(ホ)に就ては後述するとして、中荘村農地委員会は(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の四筆の田を前二者は訴外松栄清秀所有の小作地として後二者は訴外林与七所有のそれとして買収し、之を昭和二十三年三月二日買収時の耕作者としての訴外津田作次郎に売渡している。然しながら実際は右四筆の田を訴外津田作次郎はこの買収並びに売渡手続前の昭和二十年末頃訴外松栄清咋より作次郎の息子津田栄吉所有名義の中荘村字上田出リ六六番田一畝六歩、同所リ六七番田二〇歩、同所リ六八番田二五歩、同所リ七二番田一畝二五歩、同所リ七三番田一畝二九歩と交換して所有権を取得し、昭和二十一年四月より耕作を始めたものであり唯その所有権移転手続を、後に至つて前記の如く自作法第三条及び第一六条の規定による買収、売渡の形式を取つたに過ぎない(ク五〇番、ク五一番の二筆の田は所有名義は訴外松栄清咋の息子松栄清秀となつている。ク五二番、ク五三番の二筆の田は林与七の所有であつたものを同人より松栄清咋は昭和十九年末別地と交換で譲受けたものである)。従つて右土地の買収対価を津田作次郎と松栄清咋は相互に返還し合つている。

(二)  前記(ホ)上田出ク三〇番ノ一畑九歩は訴外津田作次郎が売渡を受けた昭和二十三年当時は原野であつて農地ではなかつた。それを中荘村農地委員会は昭和二十二年津田が開墾し同二十三年より耕作したものと認定し不在地主西十郎より津田作次郎に売渡の決定を為したので原告は昭和二十四年二月右決定に対し異議を申立てた処、津田は驚いて同年二月多数の人夫により畑地と為したのである。

(三)  前記の如く津田作次郎は(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)の土地を取得したけれども本件宅地買収計画当時右土地を取得していたのは津田作次郎ではなくその息子の津田栄吉であつた。従つて本件宅地の買収申請を為した時は作次郎には自作法第三条もしくは第十六条所定の農地の売渡を受けていなかつたからその資格はなかつたのである。そこで原告はこの点について昭和二十五年一月五日中荘村農地委員会に異議の申立てを為した処、村農地委員会は作次郎と相談して前記農地の所有名義を栄吉より作次郎に変更して形式を整えたのである。

二、本件宅地買収計画により本件宅地を含む上田出四十五番の宅地は分割されることになるのであるが、右買収計画による分割の方法によると訴外津田作次郎が売渡を受ける宅地には原告の同訴外人に賃貸していない土地迄含むことになるから違法である。

三、訴外津田作次郎の長男にして同人と同居せる津田栄吉は上田出字内に上田出ノ五四番地宅地四十八坪外三筆の宅地を有する。自作法第一五条の趣旨は自作農として最少限度の保護を為すために宅地の買収を認めたのであつて宅地の買溜を奨励するものでない。当地の如く住宅の外に作業用の納屋を有する部落では自作法第一五条は無条件には適用されないし、殊に津田一族の如く宅地を十分に所有する者には適用しない。

四、訴外津田作次郎は鉄道省の恩給を受けて息子栄吉公吏で年収合計十六万円以上あり一方農業所得は税務署の規準によれば年収八万円以内であつて津田家の主たる所得は農業以外から得られている。裁決書には作次郎は田畑一町六反八畝十六歩を耕作しているとあるけれども実際はかかる大面積は耕作せずその中には原野、宅地が混入されている。

五、本件宅地買収計画は法定期間の従覧に供されていない。

六、本件宅地の買収対価は不当に低廉である。

七、訴外津田作次郎は従前より地主層に属し自作法の恩典によつて自作農となつたものではない。仮に交換によつて一歩や二歩の土地を獲得し又九歩の原野を開墾したからといつて、農業経営上特にこの宅地を必要とするものとは云えない。然も原告としては話合によつて本件宅地の大部分を訴外津田作次郎に賃貸することに異存はないのであつて、同訴外人としては自作法に便乗して他人の権利を侵害してまで過分の保護を受ける理由はない。

八、自作法第三条の買収土地でさえ同法施行令によれば昭和二十三年十月二十一日迄に買収計画を完了しなければならない。而して買収は同年十二月三十一日迄に完了すべきである。然るに農地に比して附随的であるに過ぎぬ本件宅地の買収計画が右期限を数ケ月経過して決定されたのは違法である。

九、訴外津田作次郎は数十年前より本件宅地の地代を四分の三しか支払つていないから、仮に買収を認めるとしても同人は本件宅地の四分の三についてしか買受権利はない。

一〇、原告は本件宅地を本住宅建築の敷地として近く自ら使用する必要がある。

一一、本件宅地はその位置、環境及び構造等より見て買収には不適当である。

と述べた。

被告代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として本件宅地買収計画は何ら違法ではない。即ち

一、訴外津田作次郎は自作法第三条の規定により買収された小作地について、買収当時の小作農として売渡を受けたから自作法第一五条所定の宅地買収申請の適格者である。

(一)  自作法の規定により訴外津田作次郎が売渡を受けた小作地は原告主張の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)の五筆であるけれども原告主張の如き右の中(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の四筆(以上四筆を甲農と略称する)を同人の息子栄吉所有名義の上田出リ六六番、同六七番、同六八番、同七二番、同七三番(以上五筆を乙農と略称する)と交換で松栄清咋より譲受けたとの事実はない。

(a)  訴外津田作次郎が売渡を受けた田(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の四筆の内(イ)(ロ)については原告が交換ありと主張する昭和二十年暮の以前たる昭和二十年四月より右作次郎は耕作権を有し、(ハ)(ニ)の二筆については昭和二十一年四月より耕作権を有する。他方右作次郎より買収され、原告の主張によれば甲の農地(イ)(ロ)(ハ)(ニ)と交換された乙の農地については作次郎は昭和二十年四月から同二十一年三月まで耕作権を有していた。又甲の農地の作次郎に対する売渡決定のあつたのは昭和二十三年三月二日であり、然も右農地の元の所有者は(イ)(ロ)は松栄清秀、(ハ)(ニ)は林与七で何れも松栄清咋ではない。乙の農地の売渡決定のあつたのは昭和二十三年十二月二日で然も売渡の相手方は松栄清咋でなく松栄慧であり、元の所有者は津田作次郎でなく津田栄吉である。かくの如く甲、乙の農地について耕作権、所有権移転の時期が各筆相異あり又所有権者の交替も原告主張と喰い違つている点から考えても交換の事実は考えられない。

(b)  仮に原告主張の如き交換の事実があつたとしても農地の所有権の交換は、昭和十九年三月二十五日以降は臨時農地管理令第七条の二の規定により、昭和二十一年十一月一日以降は農地調整法第四条の規定により何れも県知事の許可を要する。従つてその許可なき右農地交換は効力を発生しないし、又農地委員会の立場としてもかかる交換事実を肯認し得ないから地元村農地委員会が自作法第一五条の規定に基き本件宅地について買収計画を立て被告委員会がこれを肯定したのは至当である。

(二)  訴外津田作次郎が売渡を受けた(ホ)の農地は訴外西礼子の所有だつたのであるが、従来之を訴外松田義八が小作し昭和二十一年一月十日訴外作次郎が右松田より耕作権を譲受けて耕作を続けたもので原野ではない。

二、本件買収計画により分筆して訴外津田作次郎に売渡された上田出ノ四五番ノ一本件宅地一六一坪中には従来訴外作次郎が賃借していなかつた部分は含まれていない。

三、津田栄吉が原告主張の四坪の宅地を所有していることは認めるがその中二筆は台帳面、現況共に畑であり且右四筆の土地は何れも現在公吏をしている栄吉の所有であつて作次郎のものでなく、作次郎としては本件宅地を所有するのみであるから何ら宅地の買溜という不当な結果をもたらすものでない。自作法第一五条は同法第一項第二号掲記の宅地についてはいやしくも当該自作農となるべき者の農業経営に必要である限り買収を許す趣旨であつて原告主張の如く狭義に解さねばならぬ根拠はない。

四、訴外津田作次郎は従来田一町四反三畝一六歩、畑二反五畝歩、計一町六反八畝一六歩を耕作し、従農者として同人、その妻すい、長男栄吉の妻二三子の三名があり農耕に精進し将来もその見込十分なるものであり、本件宅地買収申請の資格がある。単に長男の農業外収入があるからとて農業専従者でないとするのは当らない。

五、本件買収計画は法定期間従覧に供されて居り何ら手続上違法の点はない。

六、買収の対価の不服についての訴は国を被告とすべきであつて、買収計画取消の本件訴訟に於て主張すべきでない。

と述べた。(立証省略)

三、理  由

訴外中荘村農地委員会が訴外津田作次郎の申請により原告所有にかかる主文掲記の宅地について昭和二十四年五月二十五日自作法第一五条に基き買収計画を立て原告は之に対して右村農地委員会に異議を申立てたが却下され、更に被告委員会に訴願したが同年八月十二日却下されたこと及び訴外津田作次郎が自作法の規定により売渡を受けた土地が原告主張の如き(イ)(ロ)(ハ)(ニ)即ち甲の土地及び(ホ)の五筆のみであることは当事者間に争いがない。

原告代理人は右(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)の五筆の農地の内(イ)(ロ)(ハ)(ニ)即ち甲の農地は事実は同人津田作次郎の長男栄吉所有の乙の農地と交換によつて所有権を取得したものであり、又(ホ)の農地は右訴外人が売渡を受けた昭和二十三年当時は原野であつて農地ではなかつた、結局右訴外人は自作法第三条もしくは第一六条所定の農地の売渡を受けた事実がないから同法第一五条所定の宅地買収申請の適格者でないと主張し、被告代理人はこれを否認するので先ずこの点について判断する。

一、証人松田与作、同江上六三郎、同松田勇作、同松栄清咋(第一、二回)、同諸田吉太郎、同高見吉太郎(通称八幡割と沼田の土地の交換のことについては調査しなかつたとの証言部分)、同津田作次郎(第二回)、原告本人松栄清吉(第二回)の各証言並びに供述を綜合すると、訴外津田作次郎は昭和二十三年三月二日甲の農地を中荘村農地委員会より売渡を受けているけれども、実際は右農地は昭和二十年末頃右訴外津田作次郎の長男栄吉所有名義の乙の農地と交換により訴外松栄清咋より譲り受けた、(尤も甲の農地の所有名義は(イ)(ロ)は右訴外松栄清咋の息子清秀となつて居る。又(ハ)(ニ)は林与七の所有名義となつているが、右清咋は昭和十九年末別地と交換で林与七より譲り受けた)然し当時の村農地委員会は農地の交換の手続を採らず便宜、形式上甲乙各農地を従前の所有者から買収し、之を現所有者に売渡決定をするという手続を取つたのであることが認定出来る。他に右認定を動かす証拠はない。果して然らば訴外津田作次郎の前記甲の農地の取得については、自作法第三条もしくは第一六条によつて所定の農地の売渡を受け自作農となつたものとの同法第一五条の要件に包含されない。

尤も右交換については被告代理人主張の如く農地管理令第七条ノ二もしくは農地調整法第四条所定の県知事の許可を得ていないことは原告の争わないところであり、従つて交換それ自体としては無効であるけれども、そのことは訴外津田作次郎の右農地の所有権取得の実体関係上の原因が交換であるとの経過事情には何ら消長を及ぼすものではない。自作法による宅地買収は私法上の取引関係ではなくて国家の公権力によつて国民の私権に重大なる変更、制限を加えるものであるから、同法第一五条の宅地買収申請が相当であるか否かの認定に当つては表見的、形式的事実ではなく後段詳説の様に実体的真実を考慮しなければならない。

二、当裁判所の真正に成立したと認める乙第八号証によれば訴外津田作次郎は昭和二十三年三月二日原告主張の(ホ)の農地即ち上田出ク三〇ノ一、九歩の畑を自作法第三条、第一六条に基き売渡を受けたのであるが(当初は息子栄吉の名義にて売渡を受け後に作次郎名義に変更)、検証の結果及び証人松田与作、同江上六三郎、同松田勇作、同松栄清咋(第一回)、同松田義八の各証言を綜合すると、右土地の公簿上の地目は畑であるにかかわらず訴外津田作次郎が売渡を受けた当時の現況は荒蕪の原野であつて、同訴外人は右土地を之に隣接する同人所有の通称八兵衛屋敷に通ずる道路敷地となす目的で訴外松田義八(同人は畑地に開拓する心算で地主より使用を許されて居り僅少の試作をしたが土地粗悪で収穫の見込なく放置して居たものである)より使用権の譲渡を受け次いで前記の如く自作法の規定に基き売渡を受けたのであるが、本件宅地の買収申請資格が問題となるや、売渡の翌年の昭和二十四年急拠右土地を開墾し畑にしたものであることを認定し得る。右認定に反する証人津田栄吉、同脇沢順平、同小木幹雄、同松田幸一、同坂井清治、同坂本四郎平、同津田作次郎(第一回)の各証言は何れも信用し難い。果して然らば右土地の取得についても訴外津田作次郎は自作法第三条もしくは第一六条所定の「農地」の売渡を受けたものと云うことは出来ず、右土地取得によつても訴外作次郎は自作法第一五条所定の宅地買収申請を為し得る資格を獲得し得ないのである。

惟うに本件被告の全証拠を精査しても、訴外津田作次郎が他人の田畑を小作する必要あり、小作農として生活して居たか怎うか換言すれば自己の所有田地が無いとか、又は極めて不足して居るとか或いは家族多数で労働力が過剰であるとか、経済的に急迫していると言う様な小作の必要を感ぜしめる様な基本的の事情が少しも認められず、却つて十分の所有田を有し少しも他の地主の小作となる必要のない生活程度であつたと推認出来るのであつて、此の基本的心証が前記(イ)乃至(ニ)の土地は耕作地面積の拡張と言うこと以外の理由から大体同量の自己所有田地を失つても前記土地所有権を獲得しようとする交換契約を示唆し、之に合する原告の証拠の価値を増大させるのであり、(ホ)の土地の如き検証の結果より見るも県道のわきの窪地であつて、松田義八も収穫の希望を捨て放置して居たもので、訴外津田も亦之に多大の苦労を払つて耕地と其の収穫物を得ようとの目的があつたとは考えられぬので、此の点が前段の認定に導く証拠の価値を強くするのである。然し交換契約の法律効果が本件に於て重要であるのではなく、又それが有効であると確定するのでない。交換契約は他の農地法規の関係から効果を発生しない場合もあろうが、その如何に拘らず、訴外津田は(イ)乃至(ニ)の土地を他人の所有地として之を借受け小作すると言う意思で使用したのでないこと、右土地につき小作契約を締結したことはなく、只事実上約定した交換に基き自己のものとして使用して来たと言う事実が確認されるのであつて、之が重要なのである。更に又右(イ)乃至(ホ)の土地の買収売渡の行政処分が無効であると言うのでないのは勿論、之を取消し得べきものと終局的に断定するわけでもない。買収売渡処分は買収を受けるものの意に反して強行せられる場合もあるが、既に当事者間に或る種の約定諒解があつて、これに合致する処分の為される場合も必らずしも違法でなく法定要件があれば有効である。又違法な行政処分でも取消される迄は有効で本件行政処分は取消された事実はないから其の執行力は尊重せらるべきで、之に依つて訴外津田は(イ)乃至(ホ)の土地所有権を獲得したことも動かすことは出来ない。従つて本件宅地買収売渡の行政処分を為すに当り、前記田地売渡処分を有効なものとして前提したことは当然であり、又斯くすべきであるが、右は田地売渡の行政処分に依り当該田地所有権が移転したとの事実に限定すべきであつて前行の行政処分を為した理由となつた事実には拘束されることなく後行の処分を為すべきである。即ち田地売渡処分が有効に存続するとのことに依つて訴外津田作次郎が(イ)乃至(ホ)の田地を小作して居たことになり、右処分に依り自作地に変ると言う様な事実を擬制することは出来ない。訴外津田は右処分の前後に亘り耕作面積に問題とするに足る程の増減はなく、農家としての地位に変動は認められず、耕作面積の拡張とは全く異なる他の目的の為に交換契約が為され、其の実質的目的が売渡処分により所有権を得て完結したに過ぎないとの実情は農地売渡処分を有効として前提とするに拘らず、本件宅地の処分に当り十分考慮さるべきである。而して自創法第一五条は耕地の不足せる農民に十分の耕地を与え自作農として生活することを援助を為すには、単に農地の売渡を受けたと言う事実だけでは十分でなく、自作農地の不足する者に農地につき所有権及び之と不可分に耕作権を与えて自作農と為す必要があり之を実現する為に売渡処分が為されたことが必要であつて、本件の様に売渡を受けた農地の取得は他の大体同面積の農地の所有権、耕作権の喪失と実質上不可分に結びついて居り、それにも拘らず、当事者にとつては他の別個の目的の実現の為に交換契約が為され、之を法律的に完結させられる手段として売渡を受けた場合(処分を為す農業委員会の意思が何に拘らず売渡を受ける津田作次郎の意思と実情が大切である)は同条の定める宅地の売渡を受ける資格ある場合に該当しないものと解すべきであるから、之に対する売渡処分は違法であると謂わねばならない。

自作法に依る買収売渡処分は関係当事者の不満ある場合でも農業技術的要求から強行せられる場合もあるが、然し関係当事者の不満を出来得る限り少なくし之に満足を与えることは法律の最も望むところで、農業委員会は一方のみに扁せず両者適当に考量して行政処分をしなければならぬ。従つて関係当事者双方が満足し希望するとの点が技術的要求をある程度譲歩させ、又時には処分に内在する法律的手続的の瑕疵をも治ゆすることも絶無ではない。然しかかる行政処分を前提的先行処分として後行処分が(宅地の処分)為されるとき、先行処分(農地の売渡処分)の当事者(交換契約の当事者)双方を満足せしめた原因は後行処分の当事者(原告)には少しも関係がないから甚だ迷惑を感ずるのである。本件は一言にして言えば此の迷惑を表現したもので尤もな主張と云うべきである。後処分の適否を考える場合は先行処分が有効に存続するとの事実から直ちに出発せず、先行処分が為されるに当り関係当事者の満足(不服なし)との点が如何なる程度に重視され、考慮されたかを審究すると共に之を後行処分の判断につき同様に重視すべき理由ありや否やを考えねばならない。果して然らば本件宅地買収計画は既にこの点に於て違法であり被告は訴願の議決に於て之を取消すべきであつたに拘らず、之を認容したのは違法であつて取消を免れないから、爾余の点の判断を俟つまでもなく原告の請求は理由がある。そこで訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 北野孝一 高沢新七 斉藤寿)

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